第5話

「随分と派手にやったようだね」

作戦を終えて母艦に帰還したディオナを迎えたのはアドリシュタだった。

「あら、随分と可愛らしいお出迎えね」

ディオナは少し余裕を見せつつも、棘を持たせたように言葉を返す。

「あの女」に従うボーダー達は予想以上の働きを見せていた。

少し遊んでやるつもりが、こちらが完膚なきまでにしてやられてしまった。


「幹部連中にとっては今回ボクはお呼びではなかったようだ。

せっかくだったし、“あの場所”で少し休ませてもらってたよ。

もちろん、あの図体が大きいのもね」


本来ならば、今回の作戦はイフリットやアドリシュタが出撃するはずだった。

しかし、エイジェン幹部会「ナヴァ・グラハ」の判断により、来るべき戦いのためにと

今回の作戦には参加せず、とある場所で補給を命じられていたのであった。


「キミもあれを見る限りだと無傷でいられなかっただろう。

少し休んだらどうだい?」

ボロボロになった機体とディオナを交互に見ながらアドリシュタはこう漏らす。


「随分余裕なのね……ソーマといい、マンガラといい

あの子たちはもうちょっとマシなものを作れないのかしら」

低く、冷笑が込められたディオナの声はアドリシュタ本人に向けられたものではなく、その調整を担当したエイジェン幹部ソーマに向けられていた。


◆◆◆


謎のブラスト・ランナーを擁するエイジェンとの戦いは一旦の収束を向かえた。

だが、マグメルにとっても圧勝という結果には至らず、辛くも勝利したというのが本音である。


「ふぅ……なかなかキツかったな」

「本当にご苦労様でした。でも……またいつ襲撃が来るかわかりません。

少し警戒が必要なようですね」

今回のように短期間で準備を終えて攻めてくるかもしれない。

そう思うとフィオナは神妙な面持ちで話さずにはいられなかった。


「まぁ、あんなのに何度も来てもらっちゃたまらないけどな」

フィオナの心配をよそに、男性ボーダーは軽口をたたきながら通信を終えた。


ボーダーとの通信を終えた後、フィオナは先の戦闘の残務処理に追われていた。

戦いのさなかに傍受した通信記録を整理していたその時、誰かの「声」が聞こえたような気がした。

脳裏に浮かんだのは一人の影。あの時に出会ったたった一人の……

フィオナはふと懐かしいような気持ちになりながらも作業を続けていた。


◆◆◆


「随分と派手にやったようだな」

戦いの傷をいやしにメディカルルームに訪れたディオナの前に一人の「影」が現れた。

その「影」を見た瞬間、ディオナは先ほどの冷徹な表情とはうって変わり、口元に笑みを浮かべていた。

「あなたが直々にお出迎えなんて珍しいものね」


目の前の「影」を歓迎するような態度のディオナだったが、「影」は厳しい視線を向ける。

「やはり所詮“写し”に過ぎなかったか。

……まあいい、“次”に備えてしっかりと休むように」

「影」はそう一言だけ告げて部屋を後にした。


「私に何が足りないというの……」

機体の性能も、自身の力も申し分ないのに「あの女」にあって、自分には無い「何か」がある。そんな事実があることを許してはならない。

そして、よりにもよって自分を創ったあの人――「ケートゥ」――自身にその事実を突きつけられてしまうとは。


「あの女には絶対に渡さない……」

ディオナは暗い部屋でひとり、怨嗟の言葉をつぶやいた。


――先の戦闘から数日後――


「ん……なんだありゃ?」

新たなるニュード採掘地の調査のために派遣されたEUSTの調査員は

本部から共有された送信元不明の謎の信号の情報を元に現地へ赴き、「それ」を発見した。

「ここは何かの施設か?にしては荒れすぎじゃないか……?」

施設内には破壊されたブラストの残骸と思わしき破片が散らばり、壁のあちこちには銃弾の跡と思わしきものが残っている。

調査員が意を決して歩みを進めてみると、その先には製造中の兵器と思われる巨大な多脚型の重機が鎮座していた。

「これは驚いたな……ひとまずはお偉方に知らせないとな」

目の前にそびえる巨大な重機に圧倒されながら、調査員はその地を後にした。


――エイジェンの秘密工廠「エスコンダ」の存在が世に明らかになるのは

しばらく先の話である――

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