eust

ロンシャでの激戦は、結果だけを見れば痛み分けに終わった。

だが、目的は達成できたとミッションリーダーは宣言し、EUST陣営の気勢は上がっていた。

「あ、リストが届きましたよ!」

本部への帰路、小型の輸送機の中で操縦桿を握るメリナに話しかけているのはエリカだ。

「もうレポートが届くなんて、さすがマグメルは仕事が早いな」

「はい! ええっと、今回大活躍したのは……」

エリカはタブレット端末に表示されている名前をうれしそうに読み上げる。

「“絶対防護のこのオレ”こと昨日買った家が…さんの大活躍は、本っっ当に凄かったそうですよ!」

「ああ、彼の輝く青い機体は戦場でも一際目立っていたよ」

「もちろん、他のみなさんも本当に素晴らしい働きでした!」

「そうだな、今回もボーダー達に感謝だな」

そのリストには、今回の作戦で活躍したボーダーたちの名前がこのように並んでいた。

1位 昨日買った家が… 5680 EP
2位 KSN神@港湾局参謀 5335 EP
3位 名も無き者 5253 EP
4位 P・S 5230 EP
5位 奈々・テスカトリ 5221 EP

「みなさんみたいな“碧海の参謀”、“選ばれし闘宴の志士”、“荒ぶるおじさん”、 “第3期エースボーダー”と傭兵の間で呼ばれているような素晴らしい戦士の方々が、私たちの仲間になってくださるといいのになぁ」

これから先、あの卑劣なるGRFを駆逐していくためには、EUSTの皆の先頭に立つ勇気と、戦局を左右するような一騎当千の実力を兼ね備えた輝ける英雄の存在が必要だった。

ボーダーたちが持つその力を、ぜひEUSTの、正義のために使ってほしい。

エリカは心からそう思っていた。

「ねぇメリナ、帰る前に寄り道して、ボーダーさんのおうちに直接勧誘に行くのはどうでしょう?」

「あんたまた迷子になるからダメよ」

「むぅー、メリナのけち」

「はいはい」

年相応にむくれるエリカの様子がおかしくて、メリナはくすくすと笑いながら彼女を諭す。

「ま、活躍してくれたボーダーには特別なエンブレムを配っておいたから、あとから会いに行くときの目印になると思うよ」

「なるほど!」

「それより、もうすぐ到着するよ」

「わぁ……!」

メリナの言葉通り、眼下に懐かしい港町が見えてきた。

この古くて小さな港で連絡船に乗り換えて、EUSTの本部であるアナスタシス号を目指すのだ。

また仲間たちや、何よりラーフ様、レベレーショナーに会える。

過去、GRFの邪知暴虐により故郷は奪われ、本当の家族は理不尽にもバラバラになってしまったけれど、今は志を同じくする仲間たちこそがエリカの本物の家族だ。

もう二度と奪わせない。壊させない。

大切な家族を、みんなを守るために、エリカの戦いは続く。

「ありがとう、ボーダーさん。次もまた、お願いしますね」

「何か言った?」

「ふふっ、なんでもないですよー」

そして輸送機は、着陸シークエンスに入る。

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マグメル極東本社の、とある一室。

「ええ、確認したわ」

部屋の主であるフィオナは、とあるリストを手にどこかへ通信をしている。

そのリストには、実に100名ものボーダーの名が記載されていた。

双覇四天王
1位
鹿島産ユンケル
10464 EP
2位
ハガル
10344 EP
3位
KSN神@港湾局参謀
10285 EP
4位
昨日買った家が…
10191 EP

「前回はたった1名だけの10000EP到達のボーダーが今回は6名。とても激しい戦闘だったのね」

『俺も回収されたあいつらのブラストを見たんだが、ボロボロの機体が壮絶な活躍を物語っていたよ』

「鹿島産ユンケルさん、ハガルさん、KSN神@港湾局参謀さん、昨日買った家が…さん達には、これからもマグメルのトップボーダーとしての活躍を期待しましょう」

彼らはこの「双覇」を制した者として、おそらくボーダーたちの間で“特別な通り名”で語り継がれることだろう。

『それに、おかげでこちらもいいデータが取れた』

「それはなによりです。報酬の方はどうなっていますか?」

『ああ、ご依頼通り例のモノを100名のボーダーに渡しておいた。そのリストの通りだ』

「ええ、ごくろうさま」

『それとな、メーカーから送られてきた分にオーダー数より余剰があるんだが、これはどうする?』

通話先のグラントの問いに、フィオナはそうね、と答える。

「では、私が責任を持ってラッキーなゾロ目賞のボーダーを選んでおきましょう。ええっと……この子と、この子……あとは……」

フィオナがボーダーの名前をタップしていくと、それらがソートされて新たなリストが作られた。

ゾロ目による
「Pカノン・ネオ/紫炎」特別支給の対象者
忠義→七星→忠義
トモセつばすカントク
XD
イカゲルQ
ぺるしゃ
スーパー戦PANマン
二式こころみ
疾風丸
鈴カステラ
…他

「……こんなところでしょうか」

『了解、じゃあそいつらにも配っておこう。後は任せてくれ』

「はい、よろしく、グラント」

通信を終えたフィオナはふぅ、とため息をついた。

全面ガラス張りの大きな窓からは、美しい夜景がどこまでも広がっている。

「今回もいろいろあったけれど、次も楽しくなりそうね」

夜景を眺めながら、手元の「見ちゃダメ」ファイルをもてあそぶ。

その内側には次なる「楽しくなりそう」なヒミツが記されているのだが、それは誰の目にも触れることはない。

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ロンシャ深山の採掘用ベースに、ギルフォードは立っていた。

異常事態の連絡を受けて、後方で指揮を執っていた参謀である彼も現地入りせざるを得なかったのだ。

今回の作戦中、突如として発生した謎のコアシールド機能障害現象。

人為的なものなのか、あるいは気まぐれなニュードの状態変異か。

今も技術屋たちがあちこちで調査を行っているが、原因究明にはしばらく時間がかかるという。

現在は通常通りの稼働をしているコアを見上げていると、そこへ一人の来訪者がやってくる。

「殺せばよかったんだ」

開口一番、物騒なことを語るのはバルムンク隊長のアレン。

その表情には、普段のような物腰の柔らかさはない。

ギルフォードはアレンに目もくれず、ベースを見上げたままだ。

静かに怒りをあらわにしながら、アレンは続ける。

「EUSTの幹部と知っていたのでしょう?」

「……ああ」

ようやく返答したギルフォード。彼はゆっくりと歩きだす。

アレンが語るのは、先日ギルフォードが浪速特市に潜入していた時の話である。

ギルフォードはミッションの途中、街中で派手な衣装に身を包み、随分と挙動不審だったという謎の女性と接触。

そこで何があったのかは不明であるが、その後なぜか二人してマグメルの極東本社まで現れたという。

その際彼は身分を偽っていたとは聞いたが、それ以外の仔細は不明。

そんな不明瞭な報告だけを任務先で受けたアレンは激怒し、こうしてギルフォードの前まで問い詰めにやってきたのだ。

「なぁに、今は泳がせておけば問題ない」

「……」

「これも策の内だ。理解しろ」

「……」

二人はいつの間にかベース奥のヘリパッドまで歩いていた。そこには何機かのヘリが駐機している。

「不満か? まあいい。そんなことより次の仕事だ」

ギルフォードにとっては、そんな過去のささいな出来事よりも、未来の方が重要だった。

今回の作戦中に展開していた内偵の結果より、ギルフォードはある仮説にたどり着いた。

そこで得られたアナスタシスに関する結論は、驚愕に値するものだった。

しかし、それはあくまで機密情報であり、推論の域を出ていない。

だが、確実に真実に近づいている手ごたえがあった。

もう少し。もう少しだ。

これが知れ渡れば、世界は大きく変わるだろう。

切り札となったこの情報は、あくまでGRFのためなどでなく、来るべき時の、自らの野望のために切るカードとなった。

だから、この情報の精度をさらに上げる必要がある。

ギルフォードは手元にあった封筒をアレンに投げ渡す。

「……これは?」

「アレン。お前はこのまま北欧に飛べ」

「北欧、ですか」

「ああ。ちょっと面白い話を耳にしてな」

封筒の中には束になったレポートと、いくつかの写真が同封されていた。

それを一目見て、アレンは事情を察した。

「なるほど、そういうことですか」

「そうだ。これより両社に潜入中の工作員と接触し、真相を突き止めてこい」

「はっ」

アイドリングしているヘリにアレンが搭乗すると、それはすぐに離陸を開始した。

山岳の向こうに消えていくヘリを見送りながら、ギルフォードは煙草を咥えるようにニュード吸引器を口にする。

このニュード汚染区域では特に必要のない行為だが、こればかりはやめられない。

「……あいつの、忘れ形見、か」

風に吹かれ、空をぼんやりと見上げていると、ふとそんな言葉が口をついて出た。

余計なアレンの一言で、あの日のことを思い出してしまった。

こんなときに、あんなところで、あいつの面影など見たくはなかった。だが。

「……まあいい。利用できるものは何だって使ってやるさ」

そう呟くと、ギルフォードは吸引器を投げ捨て、その場を後にする。

こうして、今回の一連の戦闘活動に一応の終止符が打たれた。

だが、世界情勢が激しく動く中、今回のような両陣営の総力戦が再び勃発するのは時間の問題だろう。

そして、その時は意外と早くやってくるのかもしれない。

第二次 双覇大攻防 サイドストーリー (完)


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