秘密裏に戦闘レポートを収集せよ――。
そんな任務がエイジェンよりボーダー達に発せられたは少し前のこと。
作戦は無事に成功し、集積されたデータはかなりのものとなった。
結果、マグメル連合軍とエイジェンの戦いは激化の一途を辿る。
順当にいけば、そうなるものと誰もが考えていた。
しかし、エイジェンの活動は徐々に散発的になり、鳴りを潜めることになる。
戦場の風向きは予想されていたものと、異なった様相を呈していたのだ。
「この採掘場、いつまで警備する必要があるんですかねぇ」
若い男のボーダーが闇夜に灯る採掘場の光を眺めて、退屈そうに声をあげる。
「辺境だろうがなんだろうが、俺たちがマグメルから請け負った仕事なんだ。やるしかないだろう」
無精髭をたくわえた顎を擦りながら答えたのは、歴戦の風格を漂わせる男だった。
「だからって、こうやって過剰に人数をかけるこたぁないんじゃないっすかね」
「……どうだろうな」
実際、ここはエイジェンの襲撃の頻度が多く、何度も危機にさらされた採掘場だ。
しかし、ここ最近は思いだしたかのように散発的な襲撃がおこなわれる程度。
ボーダーたちが退屈するほどには、静かだったのだ。
「もしかすれば、何かたくらみがあるのかもしれんな」
「だから、従来の警備体制を崩すわけにもいかないってことすか……」
若い男は「頭の固いヤツらだ」といった言葉を飲みこみ、頭をガシガシとかいた。
「まぁ、もうすぐ交代の時間だ。暇つぶしくらいは付き合ってやるよ」
「おっ、今日はノリいいっすね。んじゃ、ポーカーでも――」
刹那、視界の端に閃光が走り、数瞬遅れて爆発音が響き渡った。
「な、なんだぁ!?」
「煙があがってやがる。あっちはβ班の警備担当区域だな」
強烈な赤光と黒い煙は、あきらかに穏やかなものではない。
戦場特有の緊張感。すぐさま切羽つまったような通信が入ってくる。
『各班へ。こちらβ班! 敵の……エイジェンの攻撃を受けている!』
「こちらα班。了解した。至急そちらに向かう。数はわかるか?」
『α班、助かる……数はわからん。が、やたら気合いを入れてきやがった! それに――』
通信機の向こうから響いたのは、ドンという耳をつんざくような轟音。
「α班! それに、なんだ!?」
『奴さん、大人しく――だけはある――』
ノイズが酷くなる。
『新型だ! しかも、コイツは飛び切りだぞ!』
「新型? エイジェンめ……コソコソしてやがったが、とうとう表立って動き出したか」
「んなことより、さっさと行きましょうよ! β班、ヤバい感じなんすから!」
「わかってる! 全機β班の援護に向かうぞ! それと連合本部に通信を飛ばせ!」
それぞれが愛機に火を入れ、戦闘区域へと急行せんとする。
「敵はエイジェンだ! 気をつけろ、やつらは本気だ」
連合本部が動き出した頃には、現場の戦力はほぼ壊滅状態にまで追い込まれていた。
戦場を開戦当初の勢いそのままに駆けるのは、何機ものエイジェン所属の機体。
そして周囲の光景を機体に映す、炎のような未確認機体だけだった。
「さて……盛大に花見と行こうじゃないか。綺麗に散ってくれたまえよ、ボーダー諸君」
未確認機を駆る人物は、これから起こるであろう、華麗で凄惨な戦いを想像しニヤリと笑う。
「フフ……アハハ……アハハハハハハ!」
まだあどけなさの残る少女の外見とは裏腹に、狂気に滲む笑い声。
コンソールには「アドリシュタ」と、少女のものと思われる名前が表示されている。
R.E.070 新型機率いるエイジェンとの戦いが今ここに始まった。