第二話

「随分とお早い帰還じゃないか」

さきのマグメル連合軍との戦闘の後、アドリシュタは早々にエイジェンの母艦に帰還していた。

「……おや、これはエース様。こんな所にまで何の用だい?」

「上官として貴様の働きを見に来てやったのだ」

ブリーフィングルームの椅子に深く座り、戦闘データを確認していたアドリシュタ。

その背後に立ったのはゼラ、その人だった。

「忙しいもんだね。どこの組織でもお偉方って言うのはさ」

「貴様が思っているほどにはな……それで、首尾はどうだったのだ?」

「悪くないよ。けど、まだまだデータが足りないね」

アドリシュタは振り返ることもなく、特になんの感慨もなしに応える。

「それは特別機の話か?」

「ん? あれに関してはもう十分じゃないかな」

それだけ言って、アドリシュタはようやくゼラの方に目をやった。

「勘違いするな。エイジェンはお前に玩具を与えているわけではない」

「…………」

少女は立ち上がると、興味なさげにゼラの横を過ぎ去っていく。

「おい」

「ウソじゃない……足りないんだ」


ゼラの鋭い視線に、アドリシュタは肩をすくめて答える。

「それに。自分の上官に嘘の報告なんて、とても怖くてできやしないさ」

軽口を叩いて、ブリーフィングルームを出ていくアドリシュタ。

ゼラは特に彼女を止めようとはしなかった。

とても上官に取るべき態度ではない――が、それを咎めようとも特に思わない。

ゼラにはあのルーキーに極力関わりたくない理由がひとつだけあった。

「いけ好かないヤツだ」

単純に馬が合わないのだ。

見た目こそ少女ではあるが、中身はそれとは程遠く、可愛げはまったくない。

「幹部直々に改造に当たった、戦闘能力のみを特化させた特別強化機兵、か……」


ゼラはアドリシュタが見ていたデータファイルを開き、舌打ちをして、乱暴に椅子へ座る。

そして、腹の底から低く唸るようにつぶやいた。

「.EXE(エグゼ)計画及びエクストラシリーズ第1号被検体……」

画面に映るのはエーカム・アドリシュタ・ソーマの名前と各種データ。

シークレットオーダーで集めた戦闘レポートが元となった、詳細不明の強化機兵再改造計画だ。

そこにあるのは、つい先ほどブリーフィングルームを出ていった、いけ好かない少女の姿だった。

「貴様が真に成功作ならば……そのポテンシャル、示してもらおうか」


――それから数時間後。

褐色隻眼の少女。アドリシュタが操る特別機が、連合軍の警戒網に突入してくることになる。

「奇襲!? 本部、こちら哨戒班! 例の機体が――」

「奇襲じゃないさ、強襲だよ」

哨戒を担当していたボーダーが、全てを伝えきる前に、少女の声がそれを遮る。

弾丸の嵐がブラストの装甲を次々と貫き、物言わぬ金属の塊に変えてしまった。

「さぁ、来てくれよ……足りないんだ……そうだ、物足りない……」

アドリシュタは爆散する機体をうっとりとした表情で眺め、恍惚のため息を吐いた。

「美人薄命ってやつだ……もっと見せてくれ、生命の花が散る様をさぁ!」

絶叫にも近い狂気的な声が、辺り一面に響き渡った。

エマージェンシー。

特別強化機兵、アドリシュタとの戦いは、まだまだ終わってなどいなかったのだ。





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