第三話

マグメル連合軍の送ったボーダー達は、辛くもエイジェンの急襲を凌いだ。

アドリシュタなる少女の駆るエイジェンの新型は、早々に戦場を去っていた様子だが――。

終ってみれば戦況は五分五分もいいところ。

エイジェンに有利な要素が、あとひとつでもあれば、敗走していただろう。

それほど、ギリギリの戦いだったのだ。

結果を受け、マグメル連合軍上層部は「新型機の実戦テスト」がエイジェンの目的だったと判断を下す。

エイジェン側の攻勢規模が、予想をかなり下回っており、しかしながら、新たに投入された特別機が最前線へと出てきていたことを踏まえた結論だ。

あわせて、その新型機の脅威度は、決して高いものではないとの評価が下されることとなった。

解析された戦闘データでは、確かに個としての高いスペックとポテンシャルを誇ってはいる。並みのブラストならば、歯も立たないレベルの代物だ。

しかし、上層部が脅威度をあえて低く見積もったのは、エイジェンの抱える人員の問題を考えてのことだった。

エース級のゼラやジーナ以外で、存分にあの機体の性能を引き出せる者が多数いるとは考えにくい。

あの特別機が量産されたとしても、連合側の現状戦力で十分に対抗できると判断されたのだ。

「へぇ~……つまり?」

エイジェンが警戒網を再び突破してきたとの報告をうけ、その迎撃任務開始までの待機時間中のこと。

フィオナの話を聞いていた女性のボーダーが、飽きて結論を急かす。

「今後もエイジェンに対するスタンスはそれほど変わらない、ということですね」

コンソールに映ったフィオナはニコリと笑って、これ以上ないくらいわかり易く答えた。

「なるほどね」

「まぁ、気になることがないわけじゃない……とも言われていますけれども」

「そうなの?」

「……任務開始まで、まだすこし時間がありますね」

それまでの間で「気になること」を教えてくれるらしい。

「ひとつの疑問は、あの新型を操っていたのがゼラやジーナではなかったことです」

「あぁ……たしかに新型の限界性能を試すっていうなら、エース級を使うのがセオリーよね」

「まだ十分なデータが集まっていませんので、あの操縦者がどれほどの腕前かはわかりませんが……」

「交戦した人から聞いたら、他のとは別物だったってさ」

それがゼラやジーナと同等なのかはさて置いて。

明らかに周りの雑兵とは一線を画していたと、だれもが口を揃えて語る。

「うーん、やっぱり隠し玉ってやつじゃないの?」

「そうなると、今まで温存していた理由が見当たりませんね」

「新しく加入したルーキーとか?」

「そんなポッと出に、特別機なんてものを与えるとは思えませんけどね」

「うーん……そう言われてみれば、たしかに気になるかも……」

「もしかすると、エイジェンの目的は新型機の実戦テストだけじゃなかったのかもしれませんね」

フィオナは「あくまでも推測の域を出ませんが」と付け足して、任務開始時刻を告げる。

「ま、難しい話は偉い人に任せるよ。私はただのボーダーだから」

「そうですか……では、お気をつけて」

「行ってきまーす」

なんとも気の抜ける軽い口調で、女性ボーダーは作戦区域へと侵入していく。

フィオナに聞いた「気になること」を、頭の片隅に追いやりながら。





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