このところ、妙な噂が広まっている。
武装組織「エイジェン」は、どこで情報を得たのかは知れないが、決まって警備体制の手薄な拠点を狙ってくるのが定石であった。
ところが、最近は厳重な警備の、戦力が揃っている採掘場でもおかまいなしに攻め入ってくるケースが増えたという。
しかも、いつものように物量で押しつぶすのではなく、少数の部隊……あるいは単騎での襲撃を仕掛けてくるとのこと。当然、ボーダー達はこれの撃退にあたるのだが、それがことごとく全滅させられているのだという。
そんなまことしやかに囁かれる噂は、あくまで根拠のない作り話のはずだった。
――とある戦場。
攻め込まれるはずのない、大部隊が展開する一大拠点。
こんな大規模な戦力を相手にとても戦闘を仕掛けようだなんて間違っても思わないようなこのエリアは今、たった1機のブラスト・ランナーにより、現在進行形で壊滅させられようとしていた。
「……何だ、あの機体は」
増援に駆け付けたボーダーたちは、その惨状に言葉を失った。
戦場の全てが炎に包まれ、まさに地獄のような光景であった。
さきほどまで救援を求めていた防衛部隊のブラスト・ランナーは焼け爛れ、撃ち抜かれ、そして一刀両断され、物言わぬ残骸たちが異形の機体の足元に何十機も転がり方々で炎上している。
そう、異形の機体。
燃え盛る業火の中で、全身にアルタード・ニュードの黄金の燐光を纏った仁王立ちのブラスト・ランナーの影がゆらり、とゆれる。
異様な光景に、その場にいた誰もが確信した。これをやったのは、こいつだ。間違いない。
あの大部隊を相手に、たった一機で……!
身じろぐマグメル連合のブラストたちを一瞥すると、その真紅の機体はゆっくりと一振りの業物を構える。
「さあ、力試しといこう。加減はしてやれんぞ」
刹那、炎の中に閃光の刃が煌めいた。